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名古屋高等裁判所 昭和36年(ツ)18号 判決

上告人 控訴人・原告 西村鉄産業株式会社 代表者 西村鉄次

被上告人 被控訴人・被告 三科義三

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由は別紙のとおりで、これに対し次のとおり判断する。

上告理由第一点ないし第三点について、

本件における事実の関係は原判決説示のように当事者間に争いないところで、ただ利息制限法適用の問題が残るに過ぎない、そして被上告人が第二審口頭弁論期日に出頭しなかつたことは所論のとおりであるが、右のように他に釈明すべき事項もない本件において原審が上告人のみ出頭のままで、さらに被上告人を呼出すことをせずに結審したからといつてなんら違法の点はなく、原審に所論のような主張誤認、審理不尽、訴訟法違反の点もない。

また、論旨中憲法第二九条、第三二条を援用する部分も、結局原審が上告人主張の財産権の存在を肯認しなかつたことを非難し、被上告人の答弁あるいは抗弁が原判決摘示と違うとの独自の見解にもとずき原審の裁判を攻撃するに帰し憲法違反の主張として採用することはできず、論旨は理由がない。

上告理由第四点について

上告人の被上告人に対する貸金元本金一八〇、〇〇〇円に対する月八分の割合による遅延利息金八二、四〇〇円および公正証書作成費用一、二〇〇円合計金八三、六〇〇円が本件約束手形金額の内容をなすことは原判決のいうとおり争いないところで、原審は第一審が右手形は被上告人において右金額の支払確保のために上告人あて振出したとしたに対し、むしろ上告人の主張をとり入れて現金支払に代えて振出したものと判断したのであつて、その判断の当否は別論としても、

原審の説示するところは、右のように既存債務の履行に代えて約束手形を振出した場合であつても、その既存債務の一部が利息制限法違反で無効であれば新債務である手形債務もまたその限度で成立しないというのであり、それは、右手形振出について利息制限法第一条第二項の「任意に支払つたとき」に該当しないと判断したものにほかならない。

その点につき論旨は原審が右手形の振出をもつて更改と判断し利息制限法第一条第二項を適用しなかつたことを非難するのであるが、かような既存債務につき約束手形を交付することは、それが履行に代えてなされる場合当事者の意思により代物弁済あるいは更改となると解せられ原審が更改と解したことを判断を誤つたものとすることはできない。

そして、利息制限法第一条第二項の債務者が制限超過利息を支払つたときというのは弁済により債務が終局的に消滅する場合をいうものと解すべく、更改のように新債務を成立させることにより旧債務を消滅せしめるが対価を現実に与えず実質上債務がいぜんとして形を変えて残存するような場合はもちろん、代物弁済であつても手形を交付するような現実に支払つたのでない場合には右の支払があつたときとはいえず、同法第一条第一項の適用があるものというべきである。

されば原審が利息制限法を適用しその結果上告人の請求を排斥するに至つたのは違法でなく論旨は採用できない。

よつて、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 西川力一 裁判官 渡辺門偉男)

上告理由

第一点憲法第二十九条によれば「財産権はこれを侵してはならない」とあるに拘らず、第一、二審共大同小異の判定で、何れも上告人の正当な権利は守られなかつた。第一審判決正文は裁判官の事実誤認勿論のこと更に被上告人の述べた答弁の内容と主旨を捏造して記述したもので、第一審裁判官の主観的判断を以て記述したものに拘らず第二審に於ても上告人の陳述を信ぜず、被上告人の答弁書未提出、公判不出頭のまま第一審判決文に誤記されたものを鵜呑みに容認した認定を下した事は第二審判決文で明であるから公正を欠くものとして上告人はこれを是認出来ない。

第二点憲法第三十二条によれば「何れも裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」とあるに拘らず第二審においては上告人は公正な裁判を受けられなかつた。即ち被上告人は答弁書は勿論何の書面の提出もしないのみか、公判に出頭さえしなかつたに拘らず裁判官は合議して結審をし、然も上告人は準備書面を提出し公判に出頭して陳述、裁判官の訊問に答弁し第一審判決文の誤謬を指摘した場合、次回被上告人を出頭せしめ対決してその双方の相違点を充分審理して明確になる可き裁判を、裁判官が独自の判断で被上告人の答弁書も出頭も無いままに被上告人に有利な判決をした事は、公正な裁判を受けたことではない。

第三点原判決には判決に影響を及ぼすことの明かなる法令違反がある。即ち民事訴訟法百二十七条及び百三十八条に示された法文目的の主旨を逸脱して相手方被上告人の準備書面不提出公判不出頭のまま結審した。更に上告人が第一審の公判廷に於ける被上告人の答弁と、判決文に書かれた被上告人の答弁と称するものの相違点を指摘して公正な裁判を求めたにも拘らず、それが認められるどころか第一審裁判所の判決の誤謬は是正されずそのまま判決をされたことは控訴審を有名無実のものにし上告人として公正なる裁判を受けることができなかつた。

第四点原判決は左の如き理由齟齬の違法がある。

一、第二審判決原本に記載の理由に(従つて控訴人の被控訴人に対する右(ロ)、(ハ)の債権は本件手形債権に更改せられたものとみられる)とあるは事実の認定と法律の解釈を誤つたものである(一号証その他によつて立証出来る)。即ち被上告人は上告人に対し、自己所有の不動産を担保として根抵当権設定契約を結んで上告人は被上告人に貸金をしたもので、被上告人が該不動産の根抵当権設定の抹消登記の必要が生じたため、上告人に対し元金は現金を以て弁済し期日弁済不履行により期日より該契約を解約抹消登記をするまでの予定損害金を本件約束手形を以て弁済し上告人は即時根抵当権設定の抹消登記をして契約証書を被上告人に返還したもので(民法四八七条)、予定損害金は全部当会社収入金として記帖処理し昭和三十四年度決算(昭和三十五年三月三十一日)に於ても収入金として税務署にも申告したものであつて、有価証券に準ずべき約束手形(手形法七五、六条商法五一八、九条)を以て、根抵当権設定契約解除と抹消登記をするために必要な債務を弁済したことは旧債務の更改で無い。

二、更に「既収の予定損害金につき利息制限法に照し超過部分は無効」と断定した事は法律の適用に誤りがある。即ち利息制限法第四条第一項第一条に照しとあるも、第四条第一項第一条とは解釈を誤つたか判決記録の誤記と思われる。仮りに利息制限法第四条第一項の条文中後半にある第一条第一項に規定する(以下省略)云々の条文を適用したとすればそれは誤りであつて、本予定損害金は根抵当権設定解除と同時に現金乃至有価証券に準ずべき約束手形を以て任意に弁済したもので裁判上争はる可きで無く、当然利息制限法第四条第二項を適用して第一条第二項を準用すべきである。

三、尚更に「商事法定利率年六分の割合云々」とある。然しこれは本件係争の埒外であると思はれるも、損害賠償の額は民法四百十九条の規定によれば、「約定利率ガ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依ル」と定めてある他、利息制限法に照しても年三割六分と規定してある。但し本件手形については上告人は期日までの利子は免除することとし、期日後の予定損害金は日歩十銭(年三割六分五厘)と利息制限法の規定をやや超過して契約したが(一号証)本件手形金に対する予定損害金については上告人は初めより之を請求せず権利を放棄している。

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